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キラリ☆和歌山人

子どもと親たちの豊かな成長を見守り続けて『佐藤百子さん』

今回のキラリ☆和歌山人は、子育て中の親や子どもたちを支援する「ほっとルームぐるんぱ」のスタッフ佐藤百子さんです。

2021/02/22

 和歌山市福島にある建物の1室に、主に0~3歳児とその親たちが集う憩いの広場ほっとルームぐるんぱがあります。市の委託を受け運営するのは、子育て支援に取り組むNPO法人きのくに子どもNPO。施設内は、子どもを遊ばせるだけでなく、スタッフに育児や家族の悩みなどを相談する親たちの姿もあり、コロナ禍でも絶え間なく親子が訪れています。
 令和2年、市の決定により和歌山市の子育て支援拠点施設が削減される事になり、ぐるんぱも翌年以降の存続が危ぶまれました。様々な悩みを持つ親や子ども達の“つどいの広場”をなくしてはならない、と声を上げてきたぐるんぱスタッフの佐藤百子さんにお話を伺いました。

子育てにかかわる全ての人の集いの場「ぐるんぱ」

「ほっとルームぐるんぱ」外観
「ほっとルームぐるんぱ」外観
 もともと人の集まり事が好きで、家に子どもの友達や親たちが遊びに来ていたという佐藤さん。ご自身の子どもさんが幼児の頃、子ども劇場(※)の活動に頻繁に参加していました。その活動を通して多くの子どもや親、家族と触れ合ううちに、それぞれの家族が人知れず持つ悩みを知ったそうです。
※子ども劇場…九州から始まった子ども達に生の舞台をみせたいという思いから子育て中の親たちが立ち上げた文化団体
コロナ禍でもたくさんの親子がやって来る
コロナ禍でもたくさんの親子がやって来る
 佐藤‐‐見た目では全くわからないけれど、親たちと話していると、家庭環境が複雑だったり、子どものいじめ、不登校、虐待…、いろんな悩みを持つ家族が少なくない事を知りました。しかも周囲の目を気にして、自分の中でため込み親は自分を責め続けている。親も子もつらい思いをする事になるので、そのしんどい思いを和らげるような憩いの場を作れないかと思い、和歌山市内のコミュニティセンターなどで親子の広場を始めたのがきっかけです。
 NPO法人として市の委託を受ける事になり、福島のここにほっとルームぐるんぱができたのが2004年。NPOなど民間団体が運営するのは、ぐるんぱ含めて当時2施設だけだったので、部屋はすし詰め状態でしたね。
 施設を運営する中で、佐藤さんは発達課題を抱える子どもが少なくない事を改めて知ったそうです。「市内に相談施設はあるけれど、どこに行けば良いのかわからない」という戸惑いの声を聞いた佐藤さんたちスタッフ。佐藤さんたちの呼びかけに、ぐるんぱの利用者や発達課題のある子どもの親たちが賛同し、情報を集めたり取材を行って情報誌を作成しました。それが2012年発行の『特別なニーズを持つ親子のための支援ガイドブック』。当事者の生の声からできた和歌山初のガイド本だったので、親子のみならず市内の公的施設各所からも要望があり配布されました。現在は市が引き継いで作成されています。
「支援ガイドブック」当事者や利用者が取材から編集まで全てに関わって作成された。
「支援ガイドブック」当事者や利用者が取材から編集まで全てに関わって作成された。
親たちが発行した「ぐるんぱメール」。2005年の第1号から毎年発行されている。
親たちが発行した「ぐるんぱメール」。2005年の第1号から毎年発行されている。
また、年に1回ぐるんぱメールを発行。毎年違うテーマで親たちが編集を行い、親目線の育児や悩み・気になる話題などコラムにして発信しています。編集ミーティングでは、いろんな親から素直な意見が数々飛び交います。個性の違いをみんなが認め合いながら、6か月という長い編集期間を経てぐるんぱメールは完成します。それと共に、安心して話し合う親たちの関係性が毎回自然と出来上がっているのだそうです。

順風満帆ではなかった自らの子育て

 佐藤‐‐娘が中1の秋から不登校になってね、家族だけど直接的な原因を彼女から聞けなかったんです。「今、娘はどういう気持でいるんだろう?」「家族環境が良くなかったのか?」といろいろ考えたし連れて行こうとした事もあったけど、実は私自身も子どもの頃、小中高ずっと人間関係が苦手で学校が苦痛だったから、娘の気持ちは少しわかってあげれたと思います。そのころ、ぐるんぱの他のスタッフが親身に話を聞いて私の気持ちをわかってくれ、私自身がこの場所やスタッフたちに助けられたんです。私にとってもここは心落ち着ける居場所でした。
 その当時は親子で悩んだけれど、今となっては懐かしい思い出。娘も社会人になり今は児童発達支援のスタッフをしています。

施設が少なくなる事への思いと親子を取り巻く現実

 佐藤‐‐「少子化で利用者は減っている」と言われます。だけど日課のように来る常連ファミリーや遠方から来て相談する人もいるんですよ。市内に12カ所ある支援拠点施設は、それぞれ特色も違えば個々の良さがあって皆さん自分に合う所に行っているでしょう。それぞれの場所を心のよりどころとして利用する家族から“よりどころ”を奪わないで欲しい。相談に来る親御さんの中には、子どもの発達課題や虐待に繋がりかねない日常、家族だけでは解決できない社会環境など、いろんな不安を背負いながら子育てしている人がたくさんいます。子育てを家族だけに押し付けてはならない。子育て支援は、いろんな立場の親子の為にあり、それぞれの親子に見合った支援の形がありますが、まだまだ不十分な状態です。その事を行政がどこまで分かってくれているのか疑問に感じるところもあります。
 育児でも何でもしんどい気持ちがあるなら、ぐるんぱの扉をちょっと開けてみて欲しい、と佐藤さんは言います。

 佐藤‐‐こちらが聞いても良いなら話を聞くし、何も話さなくても良いんです。少しくらい子どもから目を離しても私たちスタッフがいるから、親たちにゆっくり過ごして欲しい。暗い表情でやって来たママが帰る時には見違えるほど明るい表情になっている時があるんです。利用者のママやパパたちが、初めて来る人でも馴染みやすい様な温かい雰囲気を自然と作ってくれているんですよ。
‐‐ぐるんぱも来年の続行が危ぶまれた時、“親の会”が立ち上がり、およそ8000人分もの署名が集まったそうですね?
 佐藤‐‐自分の子育てだけでなく和歌山全体の子育て環境を自分たちで守りたいという熱い気持ちで自ら署名を集め、その嘆願書を持って市との交渉に挑んでくれました。自発的に活動をする姿に、社会を変える力を強く実感させられました。おかげでぐるんぱ存続は決まりましたが、「施設を減らすのではなく、親子に寄り添った子育て支援となるよう、親たちの話を聞いて欲しい」という親の会や私たちの訴えは通らず、施設が削減されてしまった事は残念でした。

佐藤さんにとっての「子育てを見守る事」

 佐藤‐‐うちはね、あえてイベントを少なくしています。その訳は、時間を気にせず遅れても短時間でも良い、来たい時に来てもらってとにかく自由に過ごして欲しいから。子どもも個性いろいろ、取り合い、押す、ケンカもしょっちゅう。ダメな事はダメという事も必要、だけど少し離れてしばらく見守ってみて欲しい。大人が入る事が必要な時もあるけど、子どもは不思議なものでね、自分たちで乗り越える事もあるんですよ。大人や子のいろんな人間模様をしっかり見て、経験して、人との付き合い方を体得して、子どもなりに小さな社会を作ってる。雑多感の中で育つ事も、みんながみんなの個性を認め合う貴重な体験。そしてそれが思いやりにつながるんだと思います。
‐‐最後に、佐藤さんの子育てへの思いと子育て中のご家族へのメッセージを伺いました。

 佐藤‐‐子どもの成長を見守りたいし、そのために親の気持ちにも寄り添い続けたいです。今の時代、様々な情報がすぐ目に飛び込んできて惑わされることも多いはず。子育ての正解なんて誰にもわからないし、みんな手探りでなんとかやっています。できなくても自信なくてもそれが当たり前。思い通りになんてそうは行かない「まさか」の連続ですよ。間違っていても自分を責めないで欲しいし、枠にとらわれずに自分の子育てをして欲しいです。そして少しでもしんどくなったら身近な親子の広場に行ってみて下さい。スタッフや親同士で関わりながら、自分にとってやりやすい子育てを探っていけたら良いですね。

information

ほっとルームぐるんぱ
【住所】和歌山市福島487 ルミノーゾふるい1F
【電話】073-452-2303
【時間】(月~木)10:00~16:00 
(日曜)10:00~15:00
【飲食】現在はコロナの影響により、室内での食事は不可となっています。
【休み】金曜・土曜・祝日・第5日曜
※警報などが発令された場合は臨時休所
【利用料】無料
※ただし年間保険料1人200円が必要です
【個別相談】月曜日 16:00~17:00(要予約)
【駐車場】あり
【実施機関】和歌山市・NPO法人きのくに子どもNPO
※開所時間など変更になる場合がありますので、お電話等でご確認下さい。
【詳細】まいぷれママの子育てあのねっと

~編集後記~
 今回取材を担当した私も、ぐるんぱ利用者の一人。当時は子育てに関係の無い相談事でも、佐藤さんやスタッフさん方のさりげない一言に勇気をもらい、いくつかの岐路を自分で分け進み、今があります。子どもは既にぐるんぱを卒業しましたが、取材後、佐藤さんに長男の中学校の制服姿を見せると当時を覚えていてくれ、家族の事の様に喜んでくれました。子どもや私たちの事をこんなにも想ってくれる、以前と変わらないその人となりに胸が熱くなりました。少し遠くても頻繁に通ったのは、この温かい人間味に惹かれていたからこそ、と今改めて感じます。 
 市の政策により市内子育て支援施設は減っています。ぐるんぱだけでなく、他の施設にも子どもや親たちを温かく見守ってくれる眼差しと、その温かさをよりどころにする親子が必ずいます。私たちが頼れる場所がこれ以上なくならない事を切に願います。

ライター:藤田有希子-福岡で地域情報番組のディレクターを経て現在和歌山で子育て中。等身大の子育て奮闘記を新聞等に寄稿している。