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キラリ☆和歌山人

まちづくりの答えは、ひとつじゃない。

株式会社 PLUS SOCIAL 取締役 有井安仁さん。

2017/02/24

和歌山でキラリと輝く活動をされている方を紹介する「キラリ☆和歌山人」。今回は、株式会社PLUS SOCIAL 取締役・有井安仁さんを取材してきました。
和歌山県の中央部に位置する有田川町。いまその有田川町が、アメリカのMoveto Real Estateブログが2013年度に発表した、「全米で最も住みたい街ランキング」1位となった、オレゴン州 ポートランドと連携した地方創生の取組みを行ない、注目を集めています。
住民自治が非常に進んでいることで、住みたい街を実際に自分たちで作り上げてきたポートランドは、「環境に優しい都市」「多食目的ででかける価値のある都市」「知的労働者にもっとも人気のある都市」など、あらゆる点で人々に選ばれてきました。そんなポートランドと有田川町が、2040年までの長期に渡るプロジェクトを進めています。
今回取材した有井さんは、このポートランドと協働する街づくりの仕掛け人。有田川で今なにが起こっているのでしょう? ポートランドと連携するに至った経緯や今後の展望、そして有井さんの“街づくり”の原点に迫っていきます。

有田川の地方創生「有田川2040」とは?

――こんにちは、今日はお時間をとっていただきありがとうございます。まず有井さんが行っている「有田川2040」についてお話を聞かせてください。

2015年から始めた有田川2040というプロジェクトは、アメリカ オレゴン州にあるポートランドの協力を得ながら実施する、有田川町の地方創生です。今、地方の人口減少が問題視されていて、和歌山の有田川町ももちろん対象です。そこで、持続可能なまちづくりをめざし、地方創生を行政と町民の連携で始めたのが「有田川2040」です。僕は、そんな有田川の人たちの街づくりをお手伝いしています。

――なるほど。人口減少の危機感から、有田川の皆さんがプロジェクトに参加し、動き始めたんですね。

そうです。地方創生という言葉を聞くと、行政の取組みだと思う人も多いと思うのですが、有田川2040では、実際動くのは民間、そして町民の皆さんです。結局「街がどう変わるのか」は「土地に住む人たちの話」であって、町民がリーダー・主人公なんです。だからこそ、一人ひとりが意見を持って参加してくれます。

僕の役割はあくまで、有田川町の皆さんに、こんなやり方や進め方があると繋げる役であって、中心ではないんです。街がどう変わっていくかは、街の人の動きや考えが重要なポイントです。

ーープロジェクトが始まって、街の人の動きや考えに変化はありましたか?

一番の変化は、やっぱり「街づくりのリーダーが増えてきた」という点ですかね。プロジェクトがきっかけで、街づくりの“ま”の字も知らなかった人たちが「AGW」という有田川の街づくりチームをつくり、今50人ほどが集まっています。公務員・みかん農家・大工さんなど、職業もバラバラだった人たちが、結束しています。
ーー「知らない街の人」だった方たちを、街づくりで繋いでいく役割って面白いですね。

そうですね。今回のプロジェクトは《人》はもちろん、有田川とポートランドの連携があってこそのプロジェクトです。僕の仕事は、お金の流れのインフラ作りなど、周りからは見えづらい裏方仕事ばかりですが、こういった海を超えて国と国を繋ぐのも「自分たちが住みたい街を自分たちで作れる」大きな一歩だと思ってます。

“全米で最も住みたい街”ポートランド市が、どうやって有田川と連携するに至ったか。

ーーそれでは、なぜポートランドと連携することになったのですか?

そもそもポートランドに住んでいたアメリカ人の友達が、「ポートランドは面白い街づくりしてるよ!」と本などを紹介してくれました。元々、僕は和歌山市で紀州よさこい・おどるんやの実行委員や、NPOを支援する中間支援NPOといった団体に入って、街づくりをしていたんです。そのため、友達が“絶対面白いから”と声をかけてくれました。このことがきっかけで、まず僕自身ポートランドに興味が湧いて、実際見に行くことにしたんです。

ーーポートランドは、どんな街でしたか?

ポートランドの街は「“個性・多様性”を受け入れる街」だと感じました。例えば、交差点の路面にアートを描いて近所づきあいを増やし交通事故を減らしたり、街でスケートボードを交通手段として認め、若者からおじさんまでがスケートボードを利用する姿が見れるなど、非常に面白い街なんです。また、週に1度のフォーマーズマーケットでは、生産者がお客様に直接どんな思いで野菜などを作ったのか、を個性を持って表現している姿も見られます。
こういった街の姿を見て、「こんな毎日を作りたい」と感じました。

ーー色んな人がいて、またその他の人の個性を受け入れる街って凄く素敵な街ですね。

そうなんです。ポートランドへは、合計8回訪問し、どうすれば僕の感じた「ポートランドの毎日」を、日本で実現できるのか考えるようになりました。
そんな時に声をかけてくれたのが、ポートランド市の開発局で働く山崎満広さんでした。なんと、ポートランド市の行政に日本人の方がいらっしゃるんです。その山崎さんに「どこかポートランドと連携で、真剣に街づくりしてくれる場所を紹介して欲しい」といわれたことで、有田川町の名前を挙げて推薦したことが始まりですね。
ーーどうして有田川町だったんですか?

以前、有田川を舞台にした映画『ねこにみかん』を作る際、有田川の方たちとお会いする機会がありました。その中で、有田川町の人たちの積極的に協力してくれる姿勢と人柄に、すごく魅力を感じました。きっとポートランドとの街づくりを進めるのに適していると思って、有田川町の人たちに紹介し、承諾を得て、連携することになりました。

ーーまさにつなぎ役になられたのですね。現在の有田川2040では、どんな企画が動いていますか?

現在は、古くなった保育園をリノベーションして、新しく女性が楽しめる空間にしようという企画です。まずは住民が住んで楽しいと思える街づくりを自分たちでカタチにしようとしています。あと、最近では有田川町の丸十家具店でポートランドのクラフトグッズが買えるようになったことです。ポートランドのクリエイターと有田川のおもしろい人達が繋がることで、街づくりと並行して色んな商売も生まれるのです。街の人があって、初めてこのプロジェクトは次へと進むことができるんです。
丸十家具店のポートランド商品コーナー
丸十家具店のポートランド商品コーナー

20代で学んだ「街づくり」

ーー有井さんが街づくりに興味を抱いたのは、いつごろですか?

興味を抱いたのは、僕が22歳で訪問理容の仕事を起業したことがきっかけでした。色々な理由で家から出られない人って沢山いますよね。訪問理容は、そんな人たちのために、僕たちが家に行き、髪をカットするサービスです。仕事をする中で、難病を抱える人や引きこもりに悩む人たちと、支える家族、そしてその影で家族を支えるNPO団体の存在を知りました。

ーー仕事を通して、街に住む人たちのことを知ったんですね。

そうなんです。お客さんと仕事を通して触れ合う中で、僕が髪を切る時間以外も幸せに過ごしてもらうにはどうしたらいいんだろうと考えるようになり、街づくりに興味を持ち始めました。その後、NPOを支援するわかやまNPOセンターや紀州よさこい・おどるんやの実行委員という活動などを通じ、街づくりというものを学んでいきました。

ーー学んだことはどんなことだったんでしょう?

本当に様々なことを学んだと思っていますが、中でも20代でおどるんやのスタッフを経験したことで「補助金には頼らず、自分たちで明確に掲げた目的をやり遂げる」という大きな事を学びました。
僕は、出店する飲食店さんなどの取りまとめを担当していました。おどるんやは、街づくりの百科事典のようです。警察から飲食店まで、学校や地域住民など膨大な数の方々に協力をお願いして、数日間の祭りを行います。色んな企業や団体が入り乱れて、大人たちが走り回るんですよ。
ーー補助金に頼らずに、あんなに大きなお祭りが成り立つのは、確かに凄い事ですよね。

継続して更に規模も回を重ねるごとに成長している、そんなおどるんやのお祭りは、和歌山市の街づくりにとって一つの転換点になったんじゃないかなと思っています。街づくりは、「街の人全員が、プレイヤーになって動く」ということだと、僕は実際に感じました。

ーーなるほど、「街の人がプレイヤーになる」って、まさに有田川にも生かされているんですね。

自分の住みたい街を、自分たちで作れる街づくりを

ーー有井さんは、いまは有田川町以外にも幅広い事業をされているんですよね。

そうですね、街づくりにとって大事なお金の流れをつくることを主な仕事としており、社会的投資をデザインする株式会社PLUS SOCIAL、金融のプラスソーシャル投信株式会社の経営に携わっています。また訪問理美容ハンズは17年目になりましたし、「ねこにみかん」をきっかけにチーズフィルムという映画会社を起ち上げたりもしました。僕は、プロジェクトや目的にそって、組織という乗り物を変えながら動いています。社会の「これから」を考え、必要なものを先を読むことで、作り出していくのが僕のスタイルです。

ーー有井さんの考える、社会でこれから必要なものってなんでしょう? 今後どんな街づくりをしていきたいとお考えですか?

街づくりは、人の数だけアプローチの仕方があると思っています。答えは一つじゃないってことです。たとえば現在運営しているシェアハウスやリノベーション賃貸アパートを始めたきっかけは、住む人が増えないと「街」は本質的に変わらないと思ったためです。街なかに人が住みたくなるための「場」を、僕は作っていきたいと思っています。

和歌山が和歌山であり続けられる持続可能な未来のために、みんながする街づくりに「いいね!」をするとともに自分にできることを、精一杯アクションして発信していく。そんな街づくりを進めていきたいと思います。

編集後記

なぜ、有田川町がポートランドと一緒に連携することになったのか、ずっと私自身疑問だったのですが、「素直に有田川町の人柄だよ」と笑顔で教えてくれた時、計算やお金などといった物ではなく、有田川町の方々に惚れ込んだからなのだと理解しました。また、同時に有井さんが街を本当に愛されているんだな、と感じました。インタビューの間、街づくりを中心に沢山お話を聞きましたが、笑顔でそして時に厳しい意見で街を見る有井さんに、とても心動かされました。
2040年を迎えた時、有田川は果たしてどんな楽しい街になっているのか、今からとても楽しみです。